いらない山林を放棄できないか【Q&A №462】 0462
【ご質問のまとめ】
いらない山林の固定資産税を払わないで済むようにする方法はありますか?
【ご質問内容】
親父が出身地の山林の一部の共有者の一人となっています。
親父は十数年前に亡くなっていますが、母親に固定資産税の請求がわずかな金額ですが毎年あります。
なにも所有メリットもないのでこの権利を放棄したいのですが、どのような手続きをとれば良いのかまた仮に弁護士事務所に依頼した場合費用はどれくらいかかるのか教えて下さい。
【所有権の放棄はできない】
私は多くの相続案件を扱ってきましたので、今回の質問と同様のケースで悩んだことがあります。
所有権を放棄できたらいいのですが、そのようなことはできません(ブログ【Q&A №273】もご参照ください)。
所有権放棄をする場合、他の相続人(共有者)の持ち分が広がります。
そのため、放棄の登記をするには他の相続人の同意が必要です。
しかし、放棄したいような不動産は他の所有者ももらいたくない場合が多く、放棄登記に協力できないというのが実情です。
昔と異なり、山林や農地は買い手がほとんどありません。
特に相続人が故郷を出たのち、故郷にある土地が遺産分割の対象になった場合、どの法定相続人も田舎の土地がいらないということで引き取り手がいなくて困るケースがあります。
【解決方法として考えられるのは・・】
他の共有者がいるのであれば、その人に不動産を買ってもらう方法があります。
場合によりば無償(要するに贈与)で譲り受けてもらう場合もあります(譲受人から登記費用も出してくれといわれたケースさえあります)。
他の共有者がいらないというのであれば、地元の人に無償あるいはそれに近い値段で不動産を売却する方法があります。
【弁護士費用について】
法律的には、共有物については共有物分割調停という手続きがあります。
これは共有状態を解消してほしいということを裁判所に求めるものです。
他の共有者を相手に訴訟をしますが、他の共有者が土地を取得する意向を示さないのであれば、結局は《共有物を競売して、その代金が持ち分に応じて分割する》という判決が出ます。
しかし、競売の手続きをするためには90万円から100万円の予納金(競売手続費用)を裁判所に納める必要があります。
次に競売手続きが開始しても、(おそらく)買受申し出はないことがほとんどでしょう。
そのため、このような訴訟を受任する際、値段が決めにくいですが、私なら着手金25~30万円程度でしょうか。
むしろ、私なら、競売されても競落される見込みがないようなら事件を受任しないということになるでしょう。
もし受任するという弁護士がいるのであれば、着手金をできるだけ少なくしてもらい、売却できたら報酬を多額にするという契約で対処されるといいでしょう。
(弁護士 大澤龍司)
Tweet土地の所有権は放棄できない【Q&A №273】 0273
死んだ父は山の一部を買いそこを畑に使用する等していたようです。現在荒れ放題です。借りたのではなく買ったようです。
隣の区画は登記簿によると神奈川の人のようです。
この畑に使用していた土地を放棄する訳にはいかないでしょうか
【土地の所有権は放棄できない】
所有権は一般に使用するも処分するも自由であり、この点は動産であっても、本件のような不動産(山林)であっても同様です。
ただ、ここでいう処分とは、売却や贈与等の、次の権利者が明らかになっている場合の話です。
これに対して不動産の放棄は簡単ではありません。不動産の放棄の意思表示を一体誰に対してするのかを定めた条文はありませんし、又、不動産の放棄をした場合にその旨の登記をどのようにするのかの条文もありません。
結局、不動産の放棄はできないと考えられた方がいいでしょう。
【遺産分割協議で取得者を決定するしかない】
あなたが相続するべき遺産の中に、価値がなく相続したくない財産がある場合には、他の相続人にその財産を取得してもらうしかないでしょう。
遺産分割協議の中で、問題の土地を他の相続人が取得するという方向で話をつけることができないのなら、相続人全員で法定相続分に応じて取得することになります。
【ある特定の財産の相続放棄はできない】
遺産の相続をしたくない場合には、家庭裁判所に対して、相続放棄の手続きをすることができます。
しかし、この場合は相続するかしないかのどちらかを選択するだけで、特定の財産だけを相続放棄するということはできません。
【土地を所有することのデメリット】
土地を所有することの一番大きなデメリットは、固定資産税の支払いと現地の管理責任を負うことです。問題の土地は、お父さんが購入されたということですので、購入当時は価値があったのでしょう。
もし、現在も価値がある土地であれば、隣接地の土地所有者がわかっているのですから、相続で取得した後に、その隣接所有者に売却する、あるいは贈与するということも考えていいでしょう。
値打ちのない土地であれば、固定資産税が非課税になる場合が多いので、相続をし、そのまま持ち続けるしかないでしょう。
現地の管理について、隣接所有者や地域の自治会から《雑草を刈って欲しい》というような要求がされることも多いですが、逆にいえばそのような苦情が出るような地域であれば、近くに住宅地があり、価値のある土地という可能性がありますので、売却・贈与等の処分を検討されるといいでしょう。
相続放棄者がいる場合の分配【Q&A №252】 0252
【質問の要旨】
・遺産である不動産から発生する賃料収入を法定相続分に応じ、相続人で分配するところ、相続人の中で相続放棄が発生。
・相続放棄された法定相続分は、その他の相続人で分配するのか?不動産を管理している長男が取得するのか?
【ご質問内容】
お世話になります。
相続開始後に発生した法定果実(地代収入)が約1000万円ほどあり、現在実家の長男が保有しています。
これは、法定相続人(5人)が法定相続分に応じて取得すべきものですが、その放棄された分(200万円)は、
①その他の相続人(4人)で平等に分配取得できる。
②管理している長男が取得できる。
のどちらが正しいのでしょうか?
【賃料は当然に長男のものというわけではない】
相続開始後に発生した賃料を誰が取得するかという問題については、平成17年にでた最高裁判所の判決があります。
その内容は《遺産に賃貸物件がある場合、その賃貸物件につき遺産分割が終了するまで賃料については、各相続人がその相続分に応じて取得する》というものです(参照:【相続判例散策】遺産分割前の遺産不動産の賃料収入は、遺産分割によらず、当然に法定相続分に応じて取得される)。
なお、遺産分割が終了した後は、その不動産の取得者が賃料をもらうことになりますが、それまでの分は各相続人が法定相続分に応じてもらうことに変わりはありません。
そのため、今回の事案でも、相続開始後の賃料は当然に長男のものになるわけではなく、他の相続人は長男に対して、その法定相続分に応じた額の返還請求権を持っています。
【家庭裁判所に対して相続放棄をしていた場合には、①その他の相続人(4人)で平等に取得する】
《相続の放棄》をするためには家庭裁判所への申述手続が必要です。
今回の質問の中で「放棄された分(200万円)」とありますが、これが相続の放棄(家庭裁判所への相続放棄の申述手続)をしたという意味であれば、相続放棄をした者は、はじめから相続人とならなかったものとみなされます。
そのため、放棄した人以外の他の相続人のみが相続人であったことを前提にして、相続分に応じて取得することになります。
たとえば、5人の相続人A~Eがおり、Eが相続放棄をしたとすると、A~Dのみが相続人であったことになりますので、A~Dは4分の1ずつ(今回の質問でいえば250万円ずつ)賃料を取得することになります。
したがって、その放棄分を長男が全部取得するわけではありません。
【放棄者が長男に対して賃料請求をしないという趣旨であれば、②長男がその放棄分を取得する】
ただ、もしも「放棄」というのが、すべての財産の相続を放棄する「相続放棄」の意味ではなく、単に、長男に対して自分の分の賃料を請求することはしない(長男に対する賃料返還請求権のみを放棄する)という意味でなされたものであれば、別です。
上記の意味であれば、単に長男と放棄者との間で、「返還しなくていいよ」と合意しただけですので、その返還を要しない部分(200万円)は長男に帰属することになり、その他の相続人がその取り分を請求することはできません。
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