大澤龍司法律事務所 相続問題無料相談ブログ

★夫の退職金で夫名義のローンを返済【Q&A №412】


 その後、夫は会社を定年退職し退職金をもらった。退職金全額を、夫は妻に渡した。
 妻は全額を「自宅兼収益物件のローン支払いにあてた」と言った。
 この件について質問です。

(1)この渡した退職金の1/2にあたる金額は特別受益として遺留分算定の基礎財産に加算できますか?

 父と母が持ち分1/2ずつの共有名義の「収益物件の不動産」があります。この「収益物件の賃料」は、全額、父の口座に入金されていました。そして、入金された後、この「収益物件の賃料」を母が毎月定額出金していました。母は、「収益物件の賃料」を管理するために、出金していたようです。母は、この定額出金した金額を自分名義の通帳にいれてるかどうかは不明です。現金で持っているかもしれません。この件について教えてください。

(1)母が管理している父の持ち分の不動産の「賃料」は、名義預金として遺留分減殺請求の基礎財産に加算できますか?

(2)遺留分減殺請求の基礎財産に加算できるとしたら、何年前まで遡れますか?

記載内容  贈与 退職金 返済

(ikasama)


※同じ方から2回に分けてご質問をいただきましたが、回答は1つにまとめています。

【各月のローンの支払い分が特別受益となり、遺産に持ち戻される】
 不動産の名義は共有であるところ、ローンは夫だけというケースです。
 妻としてはローンの支払いをしないのに、夫が各月のローンの支払いをしますので、妻の財産が増えていく(正確にいうと、その不動産には抵当権がつけられているでしょうから、その債務が減少する)ということになります。
 ローンの支払い分のうち、妻の共有持ち分に該当する分の支払い額が特別受益になり、遺留分計算の基礎財産として、遺産に持ち戻されることになります。

【退職金で支払った残ローン分も特別受益になる】
 今回、退職金でローンの残額を一括して返済したということですので、その一括支払い分のうち、妻の持ち分に相当する分が特別受益になり、遺産に持ち戻されます。
 なお、質問では夫の退職金を妻に渡したという表現があります。
 しかし、その退職金は結局、ローンの支払いに充てられているのですから、妻に渡したという点は無視してもよく、結局、夫の退職金で不動産のローンが完済されたと考えて差支えありません。

【遺留分権利者に損害を与えることを知っていたということが前提だが・・】
 遺留分の算定の際の遺産に持ち戻されるのは、相続開始1年前までの贈与です(民法1030条後段)。
 したがって、条文から見れば、1年を超えて遡った時点での贈与については、《遺留分権利者に損害を与えることを知っていた》場合に限定してのみ、持ち戻しが認められるはずです。
 しかし、最高裁は特別受益に該当するような相続人に対する贈与は、その贈与が相続開始よりも相当以前になされたものであっても、特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当であると判断しています。・・・※注1。
 今回の質問のケースは、おそらくかなりの長期間にわたるローンの支払いですが、このようなかなり以前の分でも特別受益である限り、遺産に持ち戻されますし、ましてや、最近、夫の退職金でローンを支払い、その利益を受けているのであれば、その分も特別受益として、持ち戻しになることは確実だと言っていいでしょう。

※注1・・最高裁判決:平成10年3月24日(民集52巻2号433頁)

【賃貸人名義人が賃料を取得するが、他の持分権者に持分相当額を支払う必要がある】
 まず、不動産賃貸の賃料については賃貸人が受け取りますので、賃貸契約書を確認する必要があります。
 契約書で賃貸人が夫(お父さん)であれば、賃料を受領する権利は夫にあり、受け取った賃料は夫のものです。
 但し、妻が共有持ち分を持っていますので、特段の合意がない限り、妻も持ち分に相当する賃料を夫に請求できる権利があります。

【賃料全額を妻が預金しているとすれば、特別受益の可能性もある】
 賃料は、一旦、夫の口座に入り、そのうちから一定額を妻が出金していたということですが、その出金が何に使用されたのかによって結果が異なります。
  《賃料管理の費用》として、或は《生活費としての夫婦の婚姻費用》などに支出されたのであれば、その分は特別受益にはなりません。
 この場合、一定額を支払った後に残存するお父さんの口座(正確にいうと、そのうちの賃料入金分に見合う)残額のうち、妻の持ち分割合に相当する額は妻が取得するべき分ですので、妻は夫に対しその分の返還を請求することができることになります。
 なお、妻が自分のための支出として賃料の半額程度を引き出して使っていたというのであれば、夫の預貯金全額は夫の遺産であり、そもそも特別受益の問題は発生しません。

【消滅時効と特別受益との関係】
 特別受益は消滅時効にかかりません。
 しかし、返還請求権の場合には原則として10年で消滅時効期間が経過しますので、10年以上経過した分に相当する金額の請求権は消滅していると主張される可能性があります。

父の退職金振込口座を調べる方法【Q&A №310】

 
 13年前に退職した父の退職金を振り込んだ口座を調べる方法がありましたら教えて下さい。

記載内容  退職金 預金 調査

(アッシー)


【会社と金融機関に問い合わせる】
 基本的に、退職金は会社からお父さんの指定した金融機関の口座に送金されます。
 そのため調査としては、お父さんの勤務先の会社か金融機関に問い合わせることになります。

【会社に問い合わせる】
 会社が現存しているのであれば、お父さんの相続人であり遺産調査を進めているという事情を説明して振込先口座(おそらくは給与振込口座と同一でしょう)を教えてもらうといいでしょう。
 ただ、会社としては通常の給料については2年の消滅時効、退職金については5年間の消滅時効で支払い義務が消滅しますので、13年も経過したお父さんの退職関係の資料を廃棄している可能性も高いですが、念のために会社に照会されるといいでしょう。
 なお、相続人の立場で問い合わせれば、口座があるかどうかの回答は得られる可能性が高いと思われます。

【金融機関に問い合わせる】
 金融機関に問い合わせをすることも必要です。
 ただ、金融機関に照会をする場合には、お父さんが取引していた支店名まで判明している必要があります(但し、ゆうちょ銀行は郵便局が特定していなくともよいです)。
 金融機関は、支店ごとに預金を取り扱っているため、取引支店までわからないと口座の有無を回答してくれません。
 支店名が不明の場合には、お父さんの自宅の近所にある金融機関の各支店に対し、なかば当てずっぽうに口座の有無及びその取引履歴を照会していく必要があるでしょう。
 ただ、心配なのは、金融機関が照会に応じるのは、原則として現在から約10年前までの取引履歴ですので、13年前の取引履歴が出てくる可能性は少ないということです。
 但し、当事務所の扱った案件では三井住友銀行への照会で10年以上前の取引履歴が出てきたこともありますので、頑張って、照会をかけられることをお勧めします。

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