限定承認と保証債務【Q&A №575】
【質問の要旨】
夫に借金や連帯保証があるかもしれない場合、どうすればいいか
【ご質問内容】

夫が亡くなりました。
お人好しの人でしたので連帯保証人とかになっていないか心配です。
数年後とかに連帯保証人になっていた借り主が返済できなくなった場合、限定承認をしておくと相続人には夫の連帯保証人の支払いはしなくて良いのでしょうか?
【借金や保証の調査方法】
相続の前には、借金や保証などの調査をする必要があります。
財産より債務があることが判明した場合には相続放棄などの対策を考える必要があります。
(詳しくは本ブログ【コラム】相続放棄・・借金(負債)の方が多い場合にとるべき手段もご参照下さい)。
借金の調査方法としては、自宅に残された借用書などの資料を参考に取引のあった金融機関等に照会を出し、又、日本銀行協会、JICC・CICなどの信用情報機関で調査する必要があります。
ただ、注意すべき点は、前記調査機関で調べることができるのは、主債務者(借金をした人)が、連帯保証が銀行や貸金業登録をしている貸金業者から借り入れしたものだけで、個人的な借り入れは登録されていません。
そのため、友人などからの個人的な借り入れを窺わせるような資料があれば、その友人に確認する必要があるでしょう。
保証についても上記調査機関で調査できる場合がありますが、主債務ほどきっちりとは調査機関に登録されておらず、十分な調査ができないことが多いので注意が必要です。
又、借金もそうですが、他の個人の主債務に保証した場合には、調査機関では判明しませんので、その点の注意も必要です。
【限定承認はあまり利用されていないのが実情】
前項に記載したように調査をしても保証が確実にわかるわけではありません。
結局、債務や保証の存在がある可能性のある場合には、財産の多さと負債の存在する可能性を比較して、単純相続か相続放棄かのどちらかを選択することになり、リスクを考慮しての決断ということになります。
ところで、質問にあるような限定承認という制度があります。
財産から負債は支払った上で、財産が余れば、それを遺産分割するという制度であり、極めて合理的な制度のように見えます。
しかし、この手続は、(放棄した人以外の)相続人全員の同意が必要であること、手続にかなりの手間や時間がかかること、又、不動産を相続する場合には不動産譲渡税が課税されて高額の税金がかかる等のデメリットがあり(詳細は本ブログQ&A №286や【コラム】限定承認の手続きについて)、そのため、この制度はほとんど利用されていないのが実情です。
結論から言えば、借金と資産を可能な限りで調査し、ある程度のところで見切りを付けて相続放棄をするか、リスクがあってもそのまま相続するか、決断をするしかないでしょう。
なお、限定承認をされるのであれば、その前に相続に詳しい弁護士に法律相談され、アドバイスを受けられると、後の手続きの理解ができていいでしょう。
(弁護士 大澤龍司)
亡父が連帯保証した姉の住宅ローンの相続【Q&A №551】
【質問の要旨】
姉の家の住宅ローンを父が連帯、相続で自分も負担するのは納得できない
【ご質問内容】
姉が結婚したとき二世帯住宅に建て替えました。
土地・建物は姉の名義です(母が亡くなり名義変更/父婿養子)。
住宅ローンは姉が組みましたが父も連帯になっていました。
相続になりその負債が1200万あり父の分が600万で相続人で割ると私の負担が300万と言われました。
今まで父は月々5万と年2回:各11万(ローン半額)支払ってました。
家は全て姉の物になり負債だけ私が負担するのは納得できません。
父が支払っていた分、特別利益とかにはなりませんか。
【ローン債務の承継】
被相続人であるお父さんの住宅ローン残債務が600万円あり、お姉さんとあなたのみが法定相続人であれば、あなたは300万円の債務を負担することになり、その点ではお姉さんの話は間違っておりません。
ただ、住宅ローンについては、債務者が死亡した場合には保険会社から残額を一括支払いするという保険に入っていることが多いです。
そのため、念のために金融機関に債務残高及び保険の有無等を確認することをお勧めします。
【建物資金の半額を出した点が特別受益になります】
質問を整理します。
お母さんが土地を持っていたが、これはお姉さんが相続した。
その後、お父さんが死亡した。
上記土地の上にお姉さんが単独名義の建物を建築したが、住宅ローンについては半額がお父さんであり、ローンの支払いが未了である。
以上の前提で回答を記載していきます。
お父さんは住宅ローンでお金を借りましたが、そのお金はお姉さんの単独名義の家の建築資金になっています。
そのため、その借入額が、生計の資本としてのお姉さんへの贈与と考えられ、この生前贈与額は特別受益になります。
【特別受益とした後の遺産分割】
特別受益になるお姉さんの生前贈与を受けた額については、遺産に持ち戻します。
そのため、お父さんの遺産は、《生前受益分+死亡時の財産》の合計額になります。
この額を前提に法定相続分で各人の取り分を計算し、もし、お姉さんの生前贈与額がこの各人取り分を超えている場合には、死亡時にあった遺産はすべてあなたが相続するということになります。
(当ブログQ&A №506などもご参照ください。)
(弁護士 大澤龍司)
相続放棄と連帯保証人への請求【Q&A No.473】
兄が亡くなりました。
私は相続人です。
兄の生前、兄に対する債権があり、連帯保証人も付いています。
私は、相続放棄をしましたが、債権も放棄したことになりますか?
記載内容 連帯保証 相続放棄と債権 遺産分割協議と代償金請求権
【ご質問内容の詳細】
9年前に父が亡くなり長男、次男、長女にて遺産分割協議書を作成し合意しました。
長男次男はそれぞれ不動産の遺産を相続し、長女は兄弟二人よりそれぞれ1000万円で合計2000万円を月割りで貰うこととなりましたが、長男が今年亡くなり長男支払い分1000万円の連帯保証になっている次男が払う事となりました。
しかし長男が亡くなったときに負債が多かったので次男長女とも相続放棄をする事としました。
遺産分割協議書の内容は同様に放棄する事になるのでしょうか?
長女は長男より貰うべき1000万円の残分832万円も放棄ということとなるのでしょうか?
【権利関係の整理】
お父さんの遺産分割で長男さんと次男さんが不動産を取得した。
あなたは代償金として長男さんから1000万円の、また、次男さんも同様に代償金1000万円をあなたに支払うという協議が成立した。
その長男さんの債務(1000万円の支払い)については次男が連帯保証しているというのが質問の前提になります。
さて、あなたとしては長男さんの債務について次のとおりの権利を持つことになります。
①長男さんに対する代償金請求権(主債務)
②上記①の主債務について次男さんに請求する連帯保証債権(連帯保証債務)
【相続放棄と連帯保証債務との関係】
長男が死亡し、相続人のすべてが相続放棄をしたのなら、長男さんの上記①の債務については支払うべき人(=債務の承継者)はいないことになり、上記①の債権は請求ができなくなります。
しかし、主債務者に請求できない場合でも連帯保証債務(上記②の債務)の請求は可能です。
そのため、あなたとしては、長男が未払いだった残債務の支払いを次男さんに、《連帯保証したのだから支払いをして欲しい》と言って、請求するといいでしょう。
なお、次男さんが支払いを拒むのであれば、弁護士に依頼してしかるべき法的手続きを取るしかないでしょう。
(弁護士 大澤龍司)
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