遺言書で遺贈を記した銀行口座について【Q&A №638】
【質問の要旨】
遺贈された口座にお金を移した場合
【ご質問内容】
被相続人Aが、遺言書で相続人Bに遺贈を記したA名義の銀行口座があります。 Aが生前中に、Bが当該口座にA名義のの別口座からお金を移していた口座記録が有ります。 (Aが逝去後、遺贈を受ける銀行口座の相続金額を増やそうとしていたと推定されます) このような場合は、他の相続人がBの不法行為として損害賠償請求するのは可能でしょうか? ご教示お願い致します。
※敬称略とさせていただきます。
【不法行為は成立しない可能性が高い】
不法行為は損害を受けた時に、その被害者が加害者に損害の賠償を求めるものです。
今回の、被相続人Aの口座間の金銭の移動の場合について考えます。
この場合、被害者がAだとすると、Aは、自分の口座間で財産の移動があったことは間違いないのですが、それだけで、金銭的な損害を受けていません。
そのため、損害がなく、不法行為にはならない可能性が高いでしょう。
次に、他の相続人(例えば、あなた)の立場に立てば、Bの行為であなたがもらう額は減少するかもしれません。
しかし、その行為の時点では、あなたは将来、相続を受ける立場(推定相続人)ではあっても、未だ、具体的な相続権は発生しておらず、損害はないといわざるをえません。
そのため、あなたに対する不法行為も成立はしないと判断されます。
【あなたはどういう方針で対処するべきか】
あなたがこの問題に関与できるのは、Aが死亡した後です。
その時点では、あなたは相続人になっていますし、Bの行為によりあなたのもらう額が減額されているとしましょう。
このような場合のあなたの対処方針ですが、《Bのした口座間移動はAの意思に基づかないものであり、無効である》という点で、Bを攻めるといいでしょう。
口座間移動が無効とした場合、Bはその口座間移動で移った増額分を取得できないはずです。
その法的構成をどうするかは、やや難しい面があるので、相続に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。
ただ、口座間の金銭の移動の手続きをBがしたという証拠も必要です。
口座の送金の依頼書がBの筆跡なのか、また、その際、BがAの意思に反してそのような行動をしたという証拠があるのか、それらもきっちりと押さえておくといいでしょう。
いずれにせよ、弁護士に相談され、法的構成、立証方法等を綿密に協議されるがいい案件だと思います。
誰も相続手続きしていない亡父の土地、家の扱い【Q&A №628】
【質問の要旨】
遺言による登記を放置した父の家
【ご質問内容】
20年前に父が亡くなり、現金は母と3人の子供で分けましたが、母の住む家土地は父名義のままです。
10年程前母がこの土地と家(1600万程)を可愛がっている地元に居る私の二男に相続させると遺言状を書いて私に渡されました。
私は母2分の1、子供が残り2分の1を3人で分けて6分の1ずつになる。と思っており、母が亡くなった場合、他の2人の兄弟には6分の1ずつの代金を支払えば済むかと思っておりました。
しかし、母が亡くなった場合、相続の手続き放置したままの父の土地家は母を飛び越えて3人で3分の1ずつで相続する事になると聴きました。
そうなら、母が私の二男にこの土地、家を相続させると書いた遺言状は意味が無いのでしょうか?
折角、母が可愛い孫に書いてくれた遺言状ですが、私が勝手に放棄すると罪になる様ですし、開示するには他の相続人も集めて家庭裁判所で開封と聞き、他の兄弟は不満に思うでしょうから、面倒な事になったなと思っております。
母が亡くなった場合、この遺言状に書かれている事は有効でしょうか?無効でしょうか?
追記
母は5年程前より認知症になり、今は相談出来る状態では有りません。
5年前より、ホームへ入り、家は空き家になっております。 よろしくお願い申し上げます。
※敬称略とさせていただきます
【父の名義の不動産の所有関係】
父は20年前に亡くなっていますが、その遺産分割がされていません。 そのため、父名義の不動産は
母・・・2分の1
3人の兄弟・・・それぞれ6分の1
で所有(共有)していることになります。
登記が変更されていなくとも、相続が発生した段階で当然に上記のような相続分に応じて、所有権が移転されていることになります。
【相続登記していなかった不動産はどうなるか】
父の死亡後、相続登記がされていなくとも、相続が発生した段階で当然に上記のような相続分に応じて、所有権が移転されていることになります。
そのため、母が亡くなったときには、母の持つ共有持ち分は(遺言書がなければ)母の相続人である子3人に3分の1ずつ相続されます(正確にいうと、母の持ち分が2分の1ですので、子3人は母からは不動産のそれぞれ6分の1ずつ相続することになります)。
【遺言書がある場合の母の死亡時の所有権】
母が、孫(あなたの二男)に不動産を相続させるという遺言書を書いたということですが、母は不動産全部を持っていません。
そのため、遺言書は母が現在、持っている2分の1の共有持ち分の限度で有効になります。
もし、母の相続が開始した段階では、不動産の所有関係は
3人の兄弟・・・それぞれ6分の1
孫(あなたの二男)・・・2分の1
ということになります。
【遺留分減殺請求も考えられる】
母の相続人はあなたを含めて子3人です。 子には遺留分減殺請求が可能ですので、もし、それを行使すると、あなた以外の他の子は、母の遺産につき6分の1の遺留分権を有していることになります。
減殺請求後の不動産の所有関係は次のとおりとなります。
あなた・・・父からの相続6分の1(遺留分を行使しない前提です)
他の2人の兄弟
・・・父からの相続分それぞれ6分の1+母の遺留分減殺相当分12分の1(=6分の1×2分の1)
孫(あなたの二男)・・・12分の4
【まとめると次の結論になる】
遺言書は有効ですが、もともと母は2分の1の持ち分しかなかったので、孫分しか孫(あなたの二男)に行きませんし、その分も他の2人の母の子が遺留分減殺すると、その分、持ち分が減るということになります。
相続手続き(株主名義変更手続き)に応じようとしない会社【Q&A №594】
【質問の要旨】
遺言書があるのに、株主名簿変更手続きに応じてもらえない
【ご質問内容】
非上場株式,譲渡制限株式を親が死んで相続したのですが、姉が勝手に会社に電話して、相続人兄弟3人で話し合うといったので、会社は3人相続人全員の話し合いをしてください、と言いました。
ところが、その後、遺言書があって、私1人に全部相続させる、という遺言でした(家裁検認済み、遺言執行者も私)。
それで、それを会社に言ったら、それでも、「3人相続人全員の話し合いをしてください、」というばかりで何回請求しても相続手続き(株主名義変更手続き)の用紙も送ってこずに、完全に無視した状態です。
相続手続き(株主名義変更手続き)に応じようとしない会社に対して、遺言執行者として法的にどのように対応すべきでしょうか?
【遺言書があれば、株主名義変更手続はできます】
遺言書が、あなたにすべて相続させるという内容になっていた場合、原則としてすべての遺産はあなたが相続し、遺産の中にある株式もあなた一人が相続します。
そのため、あなたが会社に株主名義変更手続をした場合、会社としてはこれを拒む理由はありません。
ただ、他の相続人が遺留分減殺請求をした場合、あなたとその遺留分減殺した人が株主になります(法律的には、株式がそれらの人の間で準共有になります)ので、会社としては遺留分権利者の同意も得てくれということで名義書き換えを拒むことができます。
遺産である株式について、複数の相続人がいる場合には、その全員の同意がない限り、名義変更もできず、又、株主として株主総会にも出席できないというのが裁判所の裁判例です。
【会社としてはトラブルに巻き込まれるのを避けようとしている可能性があります】
遺言書があり、検認も終わっているようですので、遺言執行者のあなたとしては、株主名義変更に必要と思われる書類(遺言書、被相続人の戸籍謄本、印鑑証明書、遺言執行者の印鑑証明書など)を会社に送り、遺言書どおりの株主名義変更を求めるしかないでしょう。
会社の立場から言えば、お姉さんが「相続人兄弟3人で話し合う」との連絡をしてきたために、法定相続人間で合意をしてもらってから、名義変更をしたいと考えている可能性が高いです。
(参考までに言えば、上場株式については、証券会社、信託銀行その他銀行などの金融商品取引業者等が管理をしており、名義書き換え手続を行ってくれますが、その場合であっても、証券会社所定の「相続人全員の同意書」を求められることが多いようです。)
もし、遺留分減殺請求がなされていないのに会社が名義書き換えに応じない場合には、その旨を説明して会社を説得するしかないでしょう。
それでも、会社が応じてくれなければ訴訟を提起するしかありませんが、訴訟をする前に、念のために弁護士に相談されることをお勧めします。
未分割の土地を含む遺言分割指定がある時【Q&A №585】
【質問の要旨】
被相続人が未分割の配偶者の不動産を子である相続人に譲ると遺言したが、裁判所ではどう判断されるのか?
【ご質問内容】
被相続人の遺言に、先に死亡したその配偶者との未分割状態の共有の自宅を、3相続人(子供)中のAに引き続き住めるよう譲るとあり、法務局ではまず、配偶者の持ち分9分の6を法定分割した後、被相続人の持ち分9分の6をAに登記すると云う事でしたが、自宅が住所不銘記で却下、家裁では遺言分割の承諾が他の相続人B.Cから得られず、審判できないと云われ、取り下げさせられました、最終日全員の前に、裁判官が表れ(陪審員の要請があったと思わせる)ちらりと遺言に目を通し、配偶者の未分割分は直接3人の相続人に譲られると断定しました。
法務局の説明では、全員の承諾のもとでは可能である、つまり遺言分割ではなく協議書による分割と解釈したので、家裁の裁判官の云う事には釈然としません、今後地方裁判も視野にこの点をはっきりさせて置きたいので宜しくお願いします。

【事案の整理・・父が死亡した後、その相続登記前に母が死亡したケースと理解】
まず、事案の内容を整理します。
(以下の要約は、質問からは直接は読み取れないものの、弁護士3名がほぼこのような事実関係を前提にしての質問であろうと考えた内容を記載しております)
① 先にお父さん(配偶者)の方が死亡し、遺産である不動産の相続登記をしないうちにお母さん(被相続人)が亡くなった。
② そのお母さんは「未分割状態の共有の自宅を、3相続人(子供)中のAに引き続き住めるよう譲る」と遺言した。
③ Aは、法務局で遺言に基づいて登記をしてもらおうとしたが、遺言書には自宅不動産の所在地等の記載がなかったため、このままでは物件が特定しておらず、登記はできないと言われた。
④ そのため、家裁に調停を申し立てたが、他の相続人B、Cの承諾が得られず、取り下げという結果になった。 と仮定して、説明をしていきます。
なお、今回の質問には登記に関する部分が含まれています。
わかる限度で説明はしていきますが、念のために登記の専門家である司法書士さんにも確認されるといいでしょう。
【相次いで相続が発生した場合のそれぞれの相続分】
前項で記載したとおりの事実関係であると仮定すると、相続の経過は以下のとおりとなります。
① まず、お父さんが亡くなったことにより、自宅のうちお父さんの持分であった9分の6が、各相続人に相続されます。
遺言書がなく、遺産分割協議もなされていないのだとすれば、法定相続分に従い、お母さんが9分の3、A~Cが各9分の1を相続します。
② 次にお母さんが亡くなり、「未分割状態の共有の自宅を、3相続人(子供)中のAに引き続き住めるよう譲る」との遺言があったとのことですので、お母さんの持分はAにすべて遺贈されたのであれば、お母さんの自宅持分(もともと有していた9分の3と、お父さんから相続した9分の3の合計である9分の6)をAが相続します。
結局、自宅はAが9分の7、B及びCが9分の1という共有状態になるということになります。
【自宅が特定していない点についての法務局の見解について】
ただ、遺言では前記のとおり、自宅不動産の所在地が明記されていないことから、法務局はこの遺言では不動産が特定されていないので、このままでは登記はできないと言われたのだと思われます。
その上で、もし登記をしたいのなら、法務局としては
① 遺言に記載された自宅とは被相続人が共有持分を有している自宅であることを判決で確定してもらうか、
② 相続人全員が遺言書の自宅とは、被相続人が共有持ち分を有している自宅であることを前提で遺産分割協議する。
のどちらかの方策を取れば、遺言の不動産が特定しないという点が解決し、登記が可能になるとの見解だったろうと思われます。
【遺言ではAが自宅全部を相続することはできない】
お母さんの遺言の内容がはっきりはしませんが、仮にその内容が《Aの居住している自宅すべてをAに相続させる》というような内容であったとしても、そもそもお母さんの持分は9分の6でしかなく、未分割のまま放置されていたからといって、お母さんの自宅の持分が増えるわけではありませんので、Aが自宅全部を取得することできません。
ただ、遺産をどのように分けるかについて、法定相続人全員が分割協議で合意をすれば、遺言と異なる内容でも、分割合意が優先します。
そのため、Aが自宅を単独相続(全部をAの所有に)したければ、他のB及びCの同意を得て、《自宅名義はAの単独名義にするが、その代わりに代償金等を他の兄弟に支払う》等の合意をすれば、その合意の効力として自宅をAの単独名義にすることが可能です。
【裁判所が遺産分割の審判をしなかった理由】
次に、裁判官が、「配偶者の未分割分(お父さんの持ち分)は直接3人の相続人に譲られると断定した」という点を考えてみましょう。
Aとしては、お母さんの遺言には自宅全部をAに相続させると記載されているため、父の遺産の自宅全部の相続を主張したのに対して、《Aさんが全部取得するようなことはない。お父さんの持分が、法定相続分に従って子供らに9分の1ずつ相続されることについては、全員の同意がない以上、法的に動かしようがない》ということを言いたかったものと推測されます。
B及びCから、自宅を全てAに譲るという内容で同意が得られず、遺産分割協議がまとまらなければ、遺言書の内容を実行するしかありません。
しかし、家裁の審判では、遺言書の内容を実行せよという命令を出すことはできず、地裁で裁判をする必要があります。
そのため、家庭裁判所は「審判できない」との判断をし、調停を取り下げさせたものと思われます。
認知症の母と公正証書遺言【Q&A №562】
【質問の要旨】
複雑な内容の遺言書と、長谷川式認知スケールの点数
【ご質問内容】
去年4月に認知症と診断された母がおります。不動産と預貯金があり、診断される以前から、家をついだ長女にたくさんのこすと、次女にも口頭では伝えておりました。
が、次女の配偶者がいろいろと言ってきたため、12月に公正証書遺言を専門家と相談して作成しました。
内容は、不動産はそれぞれこれは長女に、あれは次女にと記載されており、預貯金は、割合で書かれてあるとのことです。
不動産は、かなりの数があり、1つずつ指定しているので、細かい内容になっていると思われます。
認知症の場合、細かい遺言書は無効になりやすいともきき、不安です。
なお妹の遺留分はちゃんとみたしております。
長谷川式での数値は11月で17でした。
この遺言書の無効の裁判を妹におこされると仮定して、いま現在対処方法はあるのでしょうか?
また裁判をおこされた場合、勝てる可能性は、どのぐらいなのでしょうか?
【公正証書遺言は有効とされる可能性が高い】
お母さんは、公正証書遺言を作成されているようですが、公正証書遺言を作成する際には、裁判官や検察官を何十年もした経験のある公証人が関与します。
遺言書作成時には、公証人が遺言者であるお母さんに直接会い、遺言書が遺言者の意思どおりであるかを確認するとともに、遺言者に判断能力があるかどうかも確認します。
もし遺言者に判断(意思)能力がないというのであれば、公証人は遺言書を作成しません。
そのため、公正証書遺言が作成されているというのであれば、その公証人が意思能力ありと判断したということであり、それが無効とされる可能性は少ないと考えていいでしょう。
【長谷川認知スケールの点数が17点なら有効の可能性が高い】
お母さんは、遺言を作成する1か月前にした長谷川式認知スケール(満点30点)で17点だったとのことです。
これまでの裁判例から見れば、意思能力があったと判断される可能性が高いといえます(【長谷川式認知スケールと意思能力についての裁判例一覧表】参照)。
ただ、意思能力は長谷川式の点数だけで判断されるわけではありません。
たとえば、遺言書の内容が、例えば《全遺産は長男に相続させる》という簡単なものであれば点数が低くとも有効になる可能性が高くなり、逆に複雑な相続を定めていれば、それがわかる意思能力が必要とされるために、点数が高いことが要求されるということになります。
また、次項に記載して事項をも含めての総合判断ということになります。
【意思能力についての他の判断資料について】
なお、意思能力の判断資料としては、上記の長谷川式認知スケールだけではなく、病院に入院し、あるいは施設に入所などされていた場合には、その病院でのカルテ、施設の介護日誌などでお母さんの言動が記録されていることも多く、それも意思能力の有無の判断資料になることを憶えておかれるといいでしょう。
また、現在、お母さんに判断能力があるのなら、その元気な姿をビデオで撮影する等して将来の訴訟等に備えるといいでしょう。
【勝訴の可能性について】
意思能力の有無は長谷川式のテストやカルテ等の内容も含めての総合判断ですし、又、相手方の妹さんの主張や提出する証拠を見て、裁判所が最終的に判断するべきことですので、現段階で勝訴の可能性を聞かれたとしても、回答できません。
一般的に言えば、意思能力に関する裁判はなかなか難しいことが多く、当事務所で意思能力を争った訴訟でも、裁判官が迷いに迷ったことが判決内容から窺えるものすら存在するほどのものだ、ということも付言しておきます。
(弁護士 岡井理紗)
遺言公正証書が偽って作成されていた【Q&A №552】
【質問の要旨】
姉の公正証書遺言が知らないうちに作成されていた
【ご質問内容】
子供の居ない姉(84歳)が先日孤独死で亡くなりました。
主人は十三年前に亡くなっています。
姉の残した遺産についてお尋ねします。
姉弟は亡くなった姉、兄、私、妹の四人です。
姉は高齢で糖尿病も患い一人でいることを心配していました。
兄が実家を継いでおり一年半前兄嫁から姉を実家に引き取り面倒を見ることで姉と同意したので、ついては引取る為の手続きで戸籍謄本、住民票、印鑑証明が必要なので送ってほしいとの依頼があり了承し、下の妹も同様に兄嫁宛におくりました。
姉は兄嫁に言われるまま預貯金先等を回って兄嫁は金額を把握したようです。
その後兄嫁から積極的に帰って来る様に姉への動きは無かった様です。
先日四十九日に皆が集まった際、兄嫁から遺言書が出て来たと言って公正遺言証書が作成(作成日は一年前)されていた。
兄嫁の兄が税理士をしておりその兄が証人もう一人は税理士仲間の方でした。
推定預貯金五千万、不動産三千万のうち兄と兄嫁、その娘二人に行くように明記されて、遺言執行者は兄の娘となっています。
私と妹はそれぞれ百万円となっていました。
お尋ねしたいのは姉を引取らずそして法に疎い姉を操り税理士の兄と結託した兄嫁が、私達姉妹を姉の遺産相続から排除する為に一年半前に兄嫁宛に送った印鑑証明等がまさかの公正遺言証書作成目的に流用されたと思われます。
法的に対応できますか。
なお、兄は兄嫁に言われるままの人です。
【公正証書遺言を作成するのはあくまでもお姉さん】
あなたとしては、お兄さんらがお姉さんを引き取ってくれると信じ、その手続きのために必要だということで戸籍謄本等を渡したのですから、それが公正証書遺言の作成に使われており、またその内容はあなたに不利なものであったとなれば、だまされたような気持ちでしょう。
しかし、お姉さんの公正証書作成にあなたの印鑑証明書はいりません。
なお、遺言書にあなたが些少な財産を受け取ると記載されているので、あなたの戸籍は公証人に提出する必要がありますが、これも遺言書作成に必要だといえばお兄さん側で取り寄せが可能なものです。
そのため、あなたが印鑑証明書や戸籍を詐取されたということでは、お姉さんの遺言書は無効になることはありません。
結論を言えば、遺言を作成するのはお姉さん自身ですので、お姉さんが納得して遺言を作成したのであれば、その遺言は有効だということになります。
【判断能力がない場合には遺言書は無効になるが・・】
お姉さんが兄嫁にだまされて遺言を書いただとか、遺言作成当時、お姉さんに判断能力(意思能力)がない状態だったというような場合には、公正証書遺言は無効となる場合があります。
ただ、それを証明するのは、公正証書遺言が無効だと主張する側(本件ではあなた)です。
そのため、お姉さんの遺言書作成当時の判断能力を明らかにするための資料(もし、入院されておればそのカルテ、施設に入っておれば行動記録等)を取り寄せされ、当時のお姉さんの状況を確認する必要があるでしょう。
ただ、次の点は知っておかれるといいでしょう。
公正証書遺言は、自筆証書遺言とは異なって、公証人が遺言者であるお姉さんに判断能力があるか、遺言の内容がお姉さんの意思に沿ったものかどうかを直接お姉さんに確認した上で作成しますので、一般には公正証書が無効にされることは少ないです。
【遺留分減殺請求はできない】
兄弟姉妹の相続の場合、遺留分は認められていません。
そのため遺言書が有効なら、貴方としてはその記載に従うしかありません。
あなたとしては前記しているように、お姉さんの判断能力がなかったという点でその裏付け資料をしっかりと収集されるべきでしょう。
(弁護士 大澤龍司)
認知症の診断と遺言能力【Q&A №497】
【質問の要旨】
認知症との診断書がある場合、遺言は無効か
【ご質問内容】
姉が、母を連れて、認知症の専門医のところに行き、26年9月
その診断結果が、
MMSE 29 17(母の数値) 5
1日常の意思決定を行うなめの認知能力
見守りが必要
2 自分の意思の伝達能力
具体的な要求に限られる トイレ食事とか
になってました。
それで、姉がそれをもとに、成年後見制度を申請しようとしたのですが、結局しませんでした。
母は、認知症でしたが、買物もでき、自分で判断できる状態で、この診断書とだいぶ、ちがってました。
そして、26年11月に「すべての財産を私に譲る」、という遺言書をかきました。
28年3月
母は、延命治療をやるかどうか聞かれたとき、やらない、といい、おおきな病院に転院しようとしたのですが、その時の紹介状には、(一般医)「軽度の認知症であるが、日常会話もでき、判断能力はある」とかかれてました。
転院はしなかったのですが、このような状態の場合、遺言書はゆうこうでしょうか?
遺言状を執行した場合、姉が認知症の専門医の、26年9がつの診断書をたてに、遺言無効の訴えをおこしそうなので。
成年後見制度を利用できるような状態の場合だと、遺言は無効になるのでしょうか?
【認知症だからといって、必ずしも遺言は無効にはならない】
認知症といっても程度があります。
軽度の認知症の場合には遺言をする能力は認められます。
また、成年被後見人がついた場合でも、その方が判断能力(意思能力)を回復した場合には、医師2名以上の立ち会いをし、一定の方式を条件に遺言を有効とする制度も認められています(成年被後見人の遺言制度 民法973条)。
従って、認知症だからといって、遺言が認められないわけではありません。
【認知症の程度を判断する基準・・MMSEと長谷川式認知スケール】
判断能力を判定するものとして、長谷川式認知スケールがあります。
このテストは、30点満点で認知症の程度を示すテストであり、日本で多く採用されています。
今回、認知症専門医で検査されたMMSE(ミニメンタルステートメント検査の略称)というのは、長谷川式にはない図形検査や自発的に文書を書かせるような質問も存在しますが、検査の年月日や場所等の質問をする等、長谷川式と同じ部分も多いです。
長谷川式と同じく30点満点であることや上記のように質問内容がほとんど重なっていることなどから見て、長谷川式認知スケールとほぼ同様のものと考えていいでしょう。
これまでの裁判例を見ると、長谷川式認知スケールについては10点あたりが遺言能力の境目になりそうです。(この点については【コラム】意思能力と長谷川式認知スケールに関する判例の紹介および【長谷川式認知スケールと意思能力についての裁判例一覧表】をご参照ください。)
お母さんの検査結果がいくらなのか、質問ではわかりにくいですが、仮に17であれば遺言するに足る判断能力がないとは言えない可能性が高く、また、5であれば、よほどのことがない限り遺言能力がない可能性が高いという結論になるでしょう。
【紹介状の記載から見た場合は判断能力がありそうだが・・】
お母さんの転院の際の紹介状には「軽度の認知症ではあるが、日常会話はでき、判断能力はある」との記載があるということですので、その約1年半前の遺言書作成時、お母さんは遺言をするに足る判断能力があったように思われます。
しかし、その際、どんな検査をしたのかも知りたいところですし、また、一旦、MMSEで、仮に5点だとされたのであれば、どうして判断能力が回復したのかの説明も必要でしょう。
いずれにせよ、どの時点で認知症のテストをしたのか、どのような検査結果が出たのか、また、入院しているような場合にはどのような言動をしていたのかをカルテや看護記録から探る等、事実を確認して、その結果を総合して判断をするしかないというのが回答になります。
(弁護士 大澤龍司)