大澤龍司法律事務所 相続問題無料相談ブログ

生命保険金の特別受益について【Q&A №642】

 

【質問の要旨】

生命保険が遺産に含まれる場合

記載内容  生命保険 みなし相続財産

【ご質問内容】

父が他界して相続が発生しました。
相続人は後妻さんと私(先妻の子)の2名です(養子縁組なし)。公正証書遺言があり預金500万円は後妻さんと私で折半、マンション1部屋(時価2,000万円)とその他一切の財産は、後妻さん相続となっています。
その他に生命保険金1,500万円(受取人名義は後妻さん)があります。
あと後妻さんが父の銀行口座からATMで引き出した500万円(葬儀費用等)と税金等の債務100万円ほどです。
このままですと私の相続額は遺留分600万円(後妻さんが引き出した500万円は含まない)、後妻さんは1,800万円です(後妻さんには遺留分減殺通知済み)。

生命保険金1,500万円(受取人名義は後妻さん)についての質問です。
生命保険金が遺産に占める割合が5割を超えると特別受益として持戻しの対象になる可能性があるとネットで見ました。
特別受益や債務等を含めた「みなし遺産」を遺産と考えて、生命保険金の割合を算出するのでしょうか。
それとも遺産とは父死亡時の父名義の遺産のみを遺産と考えて、生命保険金の割合を算出するのでしょうか。
よろしくお願いいたします。

(ピエタ)

 ※敬称略とさせていただきます。

【みなし相続財産には特別受益や債務も含む】
まず、遺留分を算出する大前提となる「みなし相続財産」は次の式で計算されます。
《現存する遺産+生前贈与額-負債=みなし相続財産》
その前提で考えると、遺留分は600万円ではなく、さらに生前贈与分(生前の引出分)の4分の1の額が加算されることになります(この点は後述します)。
生命保険は相続税の計算に際して加算されますが、これは税務のことです。
原則として、相続(民法)では遺産としては扱われません。

【裁判例における生命保険の扱い】
ただ、例外的に生命保険がいわゆる特別受益と扱われる場合があります。
裁判例では、遺産総額の約6割に匹敵する生命保険金の存在を理由に、生命保険を遺産に持ち戻すことを認めた裁判例があります(名古屋高等裁判所平成18年3月7日決定)。
この裁判例では、(生命保険金を除く)遺産総額が約8423万円で、これとは別に生命保険金額が約5154万円あった事案について、裁判所は遺産総額の約61%にも占める生命保険(5154万円÷8423万円=約61%)という事情の下で生命保険は遺産に持ち戻すことを認めました。
つまり、この裁判例では遺産総額を計算する際、生命保険以外の遺産総額を算出し、この遺産総額と生命保険額とを比べて遺産に持ち戻すべきか否かを判断したことになります。
(なお、この裁判例は家事審判という手続の性質上、被相続人の債務が考慮されていないことに注意が必要です。)
もちろん、遺産総額に対する割合だけで特別受益と決定されるわけではなく、生命保険金額がそもそも多額かどうか、生命保険を受け取った相続人と被相続人との関係など他の事情も考慮して遺産への持ち戻しを判断していることには注意が必要です。
(なお、当ブログNO.298でも同様の論点を取り扱っております。参考までに)

【本件にこの裁判例を当てはめた場合】
  (遺産総額)※生命保険以外 
    不動産     2000万円
    預貯金     500万円
    生前の出金  500万円(生前贈与と仮定)
    合計       3000万円

ここから負債(今回の案件では相続税の課税がないと思われるので、おそらく生前の未払税等)を100万円差し引くと
    みなし遺産額2900万円
と計算されます。
 ※なお、葬儀費用は(争いがありますが)遺留分から控除しない見解が一般的ですので、この計算では控除しておりません。

他方で、生命保険が1500万円ですので、生命保険が総遺産額に占める割合は 
    保険(1500万円)÷遺産(2900万円)=約51%
と計算されます。

前記の裁判例の割合(61%)と比べるとやや低めの割合であり、持ち戻しを認めてもらうには少し厳しい状況といえるでしょう。
ただ、あなたの計算では遺留分は600万円のようですが、遺産2900万円として遺留分(4分の1)を計算すると725万円程度になります。
参考になれば幸いです。

(弁護士 北野英彦)

One thought on “生命保険金の特別受益について【Q&A №642】”

  1. 丁寧で分かりやすいご回答ありがとうございます。
    疑問が解消されましたので、問題解決に役立ちました。

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