今から40年も前のことだ。
1969年1月18日、その日、僕は東大安田講堂を目指していた。
しかし、幹線道路には機動隊が盾を連ねていた。
結局、僕は講堂にはほとんど近づけなかった。
翌19日に講堂に立てこもっていた学生は逮捕・排除された。
大阪に帰る新幹線の中で考えた。
僕は、機動隊が攻める講堂に立てこもるほどの勇気はない。
しかし、この学生のような人達の近くを一緒に歩くことぐらいはできるのではないか。
いや、せめて、激励の言葉をかけることぐらいはできるのではないか。
そのとき、本気で司法試験を受けようと思った。
最近、妻が「もう定年の歳になったのだから、仕事をやめたら」という。
仕事をやめたら、毎日、プールに泳ぎにいけるなぁ・・
日曜大工ではなく、毎日大工ができるなぁ・・
庭の木や花の手入れもできるなぁ・・
でも、もうすこし、がんばろうと思う。
法律相談の後、依頼者のほっとした顔を見るとき、
事件でそれなりの解決をして、互いに笑顔を見せるとき、
「ありがとうございました」という言葉を聞くとき、
この依頼者の人生に寄り添い、少しは一緒に歩けたかなと思う。
この実感がある限り、仕事を続けることができる。
※ 東大安田講堂事件(とうだいやすだこうどうじけん) 1969年(昭和44年)1月18日、19日に、全学共闘会議(全共闘)が占拠していた東京大学本郷キャンパスを警視庁が封鎖解除を行った事件
弁護士 大澤龍司