平成24年5月31日(木)読売新聞から
(記事の要約)
京都の世界遺産である仁和寺の境内で長年にわたり花見の時期に茶店を経営していた経営者が、昨年から営業を拒否されたことを不当として仁和寺に対し損害賠償を請求した事件の判決で、裁判所は、営業を不許可としたのは長年の関係を築いてきた経営者らへの信義則違反であるとして、慰謝料120万円を支払うよう仁和寺側に命じる判決を下した
(所内の雑感)
事務員:信義則って何ですか?そんな法律があるのですか?
弁護士:事件の本筋とは少し違う話になりますが、今日は、信義則について話をしましょう。まず、民法には「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行われなければならない。」という定めがあります。これを法律家や裁判所は一般に信義誠実の原則、つまり信義則と呼んでいるのですよ。記事のケースでも、裁判所は、仁和寺の行動がこの信義則に反したと判断したということです。
事務員:じゃあ、不誠実な人がいたら、みんな信義則違反だと言い張れば勝てるのですね。
弁護士:そういうわけではありません。「信義」とか「誠実」というものは、中身がはっきりせず、どこまでが「誠実」か、といった判断は人それぞれです。それを売買とか賃貸とか様々な場面で具体化したものが世の中に多数存在する法律であり、基本的にはそれらの法律の枠内で解決しなければなりません。
事務員:では、どんな場合なら信義則違反と認めてもらえるのですか。
弁護士:裁判所はめったに信義則違反をみとめません。信義則を使いすぎると、裁判所がどんな判断をするか予測が付かなくなり、世の中を混乱させるからです。だからこそ、我々法律家の世界では、信義則はあくまで最後の手段と考えられています。
事務員:信義則は最後の手段であって、あまり期待してはいけないのですね。今日は勉強になりました。