先日、袴田巌氏の再審が認められた。
従前の裁判の問題点や判決内容についてはテレビや新聞紙で詳しく報道されている。
私は、主として民事事件を扱う弁護士なので、刑事事件には詳しくはない。
ただ、報道を見た感想―判決についてではなく、冤罪事件や死刑についての周辺事情―を少し、
述べてみたい。
死刑台を見たことがある。
それは拘置所にあった。
私は設備を見ただけなので《これが死刑台か》程度の印象しかなかった。
しかし、一つだけ強く記憶に残ったことがある。
執行の際、受刑者のいる下の床がガタンと落ち、宙吊り状態になるという。
床は電気仕掛けで落ちるが、誰かがその操作ボタンを押さなければならない。
そのボタンは1つではなく、5つくらいあった。
刑務官5人が同時にボタンを押し、そのうちのどれかが床を落とすボタンにつながっているという。
自分が押したボタンで刑が執行されたという精神的な負担をかけないようにしているのだ。
死刑囚には執行する時期は知らされない。
刑は、その日の朝に、突然、通知され、即日、執行される。
そのため、朝、刑務官の靴音を聞く度に、自分の房の前で止まるのではないかと、毎日、おびえるという。
自分が犯罪を犯していれば、納得せざるも得ないだろうが、それでも毎朝、不安に駆られるであろう。
全く無実である袴田氏も、毎朝の足音におびえたであろうし、しかも無実の身としてみれば、これほど辛く無念なことはなく、これほど非条理で納得できない話もないだろう。
袴田氏は現在、精神が不安定という。
死刑判決が確定して約34年後の釈放である。
毎日の怯えから解放されたが、袴田氏に心安らぐ日が、果たして来るのだろうか。
あの法律はここに注目!