【どんな事故だったのか?】
2016年2月、大阪と京都を結ぶ京阪電車の2階建て車両内で、事故は起きた。
2階から階段を下りてきた男性が、階段下の補助席に座っていた女性に衝突し、女性が首の骨を折るなどの大けがをしたのである。
私も、京都に遊びに行く際によく利用する京阪電車。
一部の車両が2階建てになっており、いつもより高い位置から外の景色を見下ろせる2階席は、観光客などにも人気がある。
ただ、走行中の電車には揺れは付き物であり、走行中に階段を下りる場合を想定すると、階段の下に席があるというのは、考えてみれば危険である。
今回の事案は、男性が酒に酔った状態で電車に乗車しており、階段から1階部分に転落し女性に衝突したようである。
女性には後遺症が残ったため、勤め先を退職し、介護も必要になったというのであるから、女性からすれば本当に災難である。
当然に、女性に生じた損害はすべて補填されるべきであるといえる。
【9000万円の支払義務?510万円で残額免除?】
今回大阪地裁で成立した和解の内容を見ると、女性からの3700万円の請求に対して、9000万円もの支払義務を認めており、記事のタイトルにもなっていることから、驚いた方もおられるかもしれない。
もしかすると、9000万円も支払うことになったのだと誤解されている方もいるかもしれない。
ただ、記事の内容を読んでみるとわかるように、和解調書では、9000万円の支払義務を認めるとともに、12月中に510万円を支払えば残額を免除すると記載されていることがわかる。
これを見ると、「どういうこと?9000万円を認めてもらった意味がないのではないか」と思う方も多いのではないだろうか。
もっとも、実際の和解の場では、このように、支払義務の内容と実際支払う金額をずらした和解がなされるのは珍しくない。
事案の内容や証拠の内容からすれば、本当は多額の支払義務があるということを認めた上で、加害者の支払い能力に応じて、ある程度支払って誠意がみられれば残りは免除してあげるよ、だから約束した分は必ず支払いなさいよ、というような和解をすることは、よくあることではある。
【妥当な解決だといえるのではないか】
おそらく今回も、本当は女性に生じた損害のすべてをカバーするのが望ましいが、男性側の支払い能力からしてそれは難しい(男性側からすれば、ない袖は振れない)ため、なんとか双方が納得できる解決を目指したと思われる。
その結果が、請求額以上の9000万円もの支払義務を認めた上で、男性の資力に合わせた510万円を支払えば残額免除という解決だったのだろう。
女性の今後の生活を考えれば、決して満足のいく解決とはいえないだろうが、双方できる限りのギリギリの線を追求した結果であり、妥当な解決だったのではないかと思われる。
(弁護士 岡井理紗)
(弁護士コメント)
北野:
転倒するほど酔って階段を下りていた男性に責任があることは間違いないだろうから、違う視点ということで、私は京阪電車の責任についてコメントしてみたい。
正直自分が被害女性の弁護士なら「念のため京阪も訴えるが期待しないでくれ」と伝えるかもしれない。
京阪電車に責任があるとすれば「危ない場所に席を設置した」あるいは「階段に手すりなどを設置していなかった」などの理由だろう(急ブレーキなど運転ミスも考えられるが今回は割愛する)。
私はめったに京阪電車に乗らないが、おそらく階段に手すりは付いているだろう。走行の揺れがあっても手すりを掴んでいれば少々のことでは落ちたりしない。また京阪電車には毎日のように酒に酔った客が乗っているのだろうから、この席が「事故が起こりやすい場所」ならもっと頻繁に酔客が転落して事故が起きてもおかしくない。
今回の様な事故はやはりごくごく希な事故であり、京阪電車はそれなりの設備や運転システムを組んでいると考えざるを得ないだろう。しかも、報道によればこの補助席を撤去したというのだから、京阪電車の対応自体はそれなりにきちんとしていたというべきではないだろうか。