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あの法律はここに注目!

最高裁には悪いが、やっぱり《設置ではない》というのが正しいのではないか

外部リンク:「ワンセグ携帯も義務」確定=NHK受信契約、上告退ける-最高裁

今回は少し、固い内容になるが、我慢していただきたい。

さて、《ワンセグ》とは「ワンセグメント放送」の略で、スマホやノートパソコンなど向けの地上デジタルテレビ放送のことだ。
家庭や職場にテレビを《設置》すると、NHKと受信契約して、受信料を支払う義務がある。
放送法でテレビ等の受信設備設置者は受信契約締結義務があるとされており、その契約には受信料の支払いが記載されているからである。

しかし、ワンセグは《設置》するものだろうか?
《設置》とは、日常用語では据え付けるという意味だろう。
スマホを《持っている》ということはあっても、スマホを《設置》しているなどとは、誰も言わないだろう。
だから、ワンセグ利用者は受信料を支払う必要はないということでよいのか、そういう点が争われた裁判である。

実は、かなり昔に同種の問題が争われた事件があった。
窃盗(泥棒)罪は刑法で「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役・・に処する」と定められている(235条)。
電線に勝手に接続して、無料で電気を使用していたものが、窃盗罪で起訴された。
《財物》とは、日常用語では、形のあるもの(有体物)をいう。
しかし、《電気》はエネルギーで形はないから、財物ではない。
だから、窃盗ではなく,無罪だという弁護側の主張を裁判所は退けた。
《財物》とは支配可能性あるすべてのものをいうのである。
電気は人間が支配することの可能なものであり、《財物》だとされた。
その結果、電気窃盗は有罪とされたのである。
日常用語と全く異なる意味で、法律用語が適用されたのだ。

今回の事件も同種の事件で、日常用語をはみ出る解釈・適用をするべきではないというのが、原告(料金支払拒否者)の主張の根本的動機であろう。
ところで、ワンセグの受信料の要否についてはこれまでにも裁判で争われている。
手元の判例検索システムでこのようなワンセグ事件に関する判例を調査したところ、
・地裁段階の判決数は計4件(支払義務を認めたもの計3件:NHK勝訴率75%)
・控訴審の判決数数は計4件(支払義務を認めたもの計4件:NHK勝訴率100%)
であった。

今回の最高裁の判決が入手できていないので、最近の東京高裁の判断(H30.3.26判決)を前提にコメントする。
まずこの判決では、次のような理由で支払い義務を認めている。
① 放送法は、その中で 「移動受信用地上基幹放送とは、・・携帯して使用するための受信設備により受信されることを目的とする基幹放送・・・をいう」と規定しており、法律自体が移動受信を対象としている。
② 放送法が平成21年及び22年に改正された際にも、「設置」の規定を変更しようという議論がなされたことがなかった。
これらのことから言えば、放送法がワンセグなどにも設置を前提としていたことは明らかであるとして、受信料支払義務を認めるに至った。

しかし、「移動受信用地上基幹放送」すなわちワンセグなどの存在を知っていながら、従来から使われていた《装置》という文言をなんら変更することなく、そのまま使用し続ける限り、装置の中にはワンセグは入らないという理解も可能である。
もし、ワンセグを含めたいなら、《装置》に関する条文に《移動受信できるものを含む》という言葉を入れることで簡単に解決することができたはずである。

高裁判決が支払いを認めた本当の根拠は、スマホ等で見る場合には、受信料の支払はしなくていいというのはそれは不公平だというものであり、その点は判決文にも明記されている。
私はNHKをよく見ており、事務所の若い弁護士にも《日曜9時から始まる《Nスぺ》は現在の問題点を知るためには不可欠の番組だ、ぜったい見た方がよい》といっている人間だ。
だから、ワンセグに受信料支払い義務を課するのには大賛成である。

ただ、人に一方的に契約の締結義務を課し、金銭的な支払をさせるのなら、争いのないように法律ではっきりと定めるべきだろう。
どのような場合に料金を支払う必要があるのか、その範囲と根拠を明確にする必要がある。
《装置》と条文にかかれている以上、日常用語的に解するのは当然であり、もしそうでないというのならその点を明確にすればいいのである。
それが明確ではない以上、ワンセグに使用料は課すべきではないというのが私の結論である。
当初、このワンセグ事件の話を聞いたときは、なぜ訴訟までするのだろうか、原告は一体、どういう人だろうかと不審に思った。
しかし、この文章を書いているうちに、心境に変化をきたした。
今は、原告達はきちんと明確にしないで支払いさせるのを、権力の横暴ととらえ、これに抵抗している人たちではなかろうかと思うようになったのである。
裁判をし(しかも最高裁までいけば)、それなりの弁護士費用がいるだろうが、あえて、《無謀な挑戦をする》、こんな人たちも必要ではなかろうか。

話が横道にそれたので元の話に戻ろう。
今回の最高裁判決は、立法の不備を、司法が補ったような形になっている。
人に義務を課すのであれば、わかりやすいようにする、そのようなことが必要だ。
国なり、NHKが企業だとすれば、視聴者は顧客ではないか。
顧客に十分な説明もせずに、受信料の支払いを強要するような最高裁の今回の判決には反対である。
その一方で、法律できちんと明確にするという前提が整うなら、ワンセグに視聴料を払わせるようにして、NHKを支えることには大賛成である。
(弁護士 大澤龍司)

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