部屋で地図を見ると、宿の近くに小さな川がある。
歩けば20分ほどの距離である。
川に行けば、流れがあり、石を拾うことができる。
長男に《川まで散歩でもするか》というと、
《行こう》という答えが返ってきた。
部屋で少し休んだ後、部屋を出た。
フロントを抜けて、玄関の扉が開いたとき
(正確に言うと自動扉なので勝手に開いたのだが)
さわーっと風が吹きつけてきた。
幾分、夏の熱っぽさを含んではいたが、
それでもかろやか、爽やかさであった。
《いいなあ》と思った。
これが旅行というものだ、
求めていたのはこれだと思った。
このような風に吹かれるために、
わざわざここまで来たのだ。
《景色》ということもあれば、《風景》ということもある。
景色は眼で見るものである。
風景は、風に包まれて、体全体で感じるものではなかろうか。
旅行で風の印象が一番記憶に残るような気がする。
冬の越前岬の凍えそうな風、
福島の猪苗代湖の枝垂れ桜を枝をゆっくりと動かす風、
行ったところにはその土地の風が吹いている。
そういえば、人の生まれた土地などを表現する言葉に
《風土》という言葉がある。
風と土と一体にした、
なんともうまく作られた言葉ではなかろうか。