1 はじめに
今日はとても難解なテーマを取り上げたいと思います。
以下の架空事例をもとに考えてみましょう。
2 架空事例①
スクールカウンセラー(以下、「SC」といいます。)が、生徒に対して、「これから聞くことは誰にも話さないので、安心して悩みを話してくださいね」と言って、カウンセリングを行いました。
その後、職員室に戻ったSCは、学校現場では集団守秘義務を負っているのであって、生徒の悩みを教職員間で共有することは守秘義務に反しないし、むしろ生徒の利益になると考え、生徒の相談内容を、生徒に無断で教員に伝達しました。
3 架空事例①におけるスクールカウンセラー及び使用者の法的責任
⑴ 学校法人・生徒間(あるいは、SC・生徒間)での心理カウンセリング契約(心理療法契約)は、民法における準委任契約に当たります。
その契約は、契約当事者が未成年者であっても、未成年者取消権(民法5条2項)が行使されない限りは有効です。
そのため、SCによる心理カウンセリング開始前の発言により、生徒の相談内容をSCが第三者(教員、管理職、保護者、スーパーバイザー等を含む)に漏洩してはならないということも、契約内容になっています。
そうすると、架空事例において、ⓐ契約当事者が学校法人と生徒である場合は、原則、SCは個人として不法行為責任を負い、学校法人は使用者責任ないし債務不履行責任を負うことになります。ⓑ契約当事者がSCと生徒である場合は、原則、SCは不法行為責任ないし債務不履行責任を負うことになります。
⑵ 例外的に、㋐法令により通告義務がある場合(例:児童虐待防止法6条1項、3項)、㋑生命・身体への重大な危害を防止するために必要がある場合には、守秘義務は解除され、適切な対象者に通告する限りでは、SCは法的責任を負わないと考えられます。
なお、㋑の重大性をSCが自己に都合のいいように解釈しても意味はなく、裁判所がどう判断するかが重要であることに注意が必要です。
4 架空事例②
次に、架空事例①とは少し異なる事例を考えてみます。
聞いたことは誰にも話さないことを約束した上でカウンセリングを開始し、SCが生徒から、㋐虐待を受けていることや㋑生命・身体に対する重大な危害に関する相談を受けたものの、生徒から第三者には言わないでほしいと強く要望され、SCは第三者に相談内容を通告しなかったとします。
5 架空事例②におけるスクールカウンセラーの法的責任
この場合、SCが第三者に相談内容を“通告しなかった”ことにより、法的責任を負うか否かについては、3⑵とは次元の異なる問題になります。
㋑の場合であっても、直ちにSCに秘密の開示が義務付けられるわけではないでしょう(日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編『解説弁護士職務基本規程第3版』参照)。
また、㋐の場合であっても、児童虐待防止法上の通告義務が、不法行為法上の作為義務を基礎づけるほどのものであるかどうかは、別途検討が必要です。
(弁護士 武田和也)