外部リンク:運転者でなく、車名義人に事故賠償責任…最高裁
報道を見ると、事故を起こした運転手ではなく、車の名義を貸していた弟に賠償責任を認めた、ということである。
このような判決を見ると「どう考えても運転手が悪いだろう」「なぜ名前を貸した方に責任が?」といった声が聞こえてきそうであるが、なぜこのような判決が出たのだろうか。
報道では判決文が出ていないので詳しくは分からないが、おそらく裁判を起こした被害者の側は、保険の適用を意図したのではないだろうか。
運転手は生活保護者なので、おそらく自動車保険も加入していなかったと思われる。
そうすると、事故を起こされた被害者は保険で治療費や慰謝料を支払ってもらえず、自費で通院するなど大変な事態になる。
正直、ケガをさせられた方はたまったものではない。
そんな被害者の依頼を受けた弁護士ならどう考えるか、というとこんな感じではないだろうか。
(あくまで想像ですので、話半分にお読み下さい)
弁護士A「加害者は生活保護で無保険だ。誰か保険を使える人に責任を負わせられないか?」
弁護士B「どうやら車が弟の名義だ。弟は保険に入っているのでは?」
弁護士A「それなら弟を訴えよう。車を貸していたのなら責任はあるはずだ」
・・・とこんな感じで、(保険を使える)弟を訴えることに決まったのではないだろうか。
車は社会に必要なものだが、一歩間違えれば大事故につながる危険もある。
法律で強制保険(自賠責保険)という制度があるのも、車に事故がつきものだからである。
だからこそ、自分の車を誰かに使わせるなら保険が使えるのか確認しなければならない。それが責任ある車の管理というものだと思う。
もし、生活保護をもらうために隠れて車を使うという話が事実であれば、あってはならないことだと思う。
(弁護士 北野英彦)
(弁護士コメント)
岡井:
生活保護受給者が隠れて車を使用している事例があるということは、役所からも聞くことがあります。
たしかに生活保護費を受給しながら、自動車という高額な財産を保有することには議論があるところだとは思いますが、そうはいっても、子供を保育園に連れていくためや、通院のため、車が必要な家庭があることも事実です。
この判決の事例が、車を必需品とする事情があったのかは不明ですが、車の所有者としては、自分が運転している際の事故ではなくても、「運行供用者」として責任を負うことがありますので、人に車を貸すことについては危険がつきまとうことを覚えておかなければなりません。
畝岡:
交通事故案件では、しばしば運転手が任意保険に加入していない場合がある。上記事案において北野弁護士の推測どおりの過程を経て、所有者の責任追及ができた場合には、被害者は適切な賠償を受けることができる。もっとも、仮に資力の乏しい者が、自ら所有する自動車を運転することにより事故を起こしてしまった場合には、被害者が適切な賠償を受けることが困難なことが多い。
しかし、交通事故の相手方の任意保険の有無・内容を被害者が選べるわけではないので、車両保険や人身傷害保険、弁護士費用特約など自分の任意保険の内容を確認することが重要であるように思う。
大澤:
今回のタイトルには「事故の責任は運転手なのか?それとも自動車を貸した名義人か」とあるが、運転手に責任あることははっきりしている。
ただ、北野弁護士の解説にもあるように、運転手は生活保護を受けており財産もなく、また、任意保険も入ってないだろうから賠償金も支払えない。
そのため、《自動車の名義(自動車自体ではない)貸しをしていた弟に賠償請求できないか》という点が問題となる。
具体的な事故については、弟は何ら関与していないだろうから、民法の不法行為責任は追及できない。
ただ、自動車損害賠償保障法という法律で、自動車の運行を支配し、利益を受ける者は賠償責任を負うことになっている。
運行供用者とは、自動車やその運転を管理できる人のことであるが、これまでの裁判例では名義貸しだけでは運行供用者にならないと判断されることが多かった。
原審の東京高裁も同様の考えで、弟への賠償請求を認めなかった。
ところが、今回、最高裁では、単に名義を貸した弟に運行供用者責任を認め、賠償をするべきだとの判断をした。
ただ、すべての名義貸しに適用されるのか、あるいはこの事件だけの特殊の事情があったのかは具体的な判決内容を見ないとわからない。
しかし、最高裁でこのような判決が出た以上、自動車の名義貸しだけでも賠償責任を追及されるリスクが高まったことは間違いないだろう。