外部リンク:「医師は死ねと?」 炎上した残業上限2000時間案が出てきた舞台裏
多くの医者が、過労死ラインを超えて働いている現状がある。
弁護士とは違って、医者は基本的に、診療を求めてきた患者を拒むことができない。
このことは医師法に定められており、人の生死にかかわる職業である以上は、当然ともいえる。
しかし、だからといって、医者は他の職業よりも無理をしなければならない、残業を強いられなければならないということにはならない。
医者も人間なのだから、無理をすれば体調を崩すし、労働環境が悪ければ精神的に不安定にもなるのは当たり前である。
医者が厳しい労働環境下に置かれれば、今よりさらに医者が減り、結局困るのは患者側ということにもなる。
記事によると、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が、地域医療を守る病院などに対する特例として、時間外労働の上限を1900~2000時間とする案を提示したとのことである。
月に直せば160時間程度、一般労働者の過労死ライン(960時間)の2倍以上であるといえば、その異常さは明らかであろう。
一部の病院に対してだけ適用される特例であるとはいえ、この上限時間を当然のように提示したことについては、驚きしかない。
たしかに、現状の世の中では、36協定(法定労働時間を超えて働く場合に労働側と使用者側で締結する協定)すら締結されずに、長時間の労働を強いられてきた医者が多く、また、労務管理をしていなかった病院が多いことも事実であろう。
上限を定めることによって、それは改善されるかもしれない。
しかし、36協定が締結されようと、労務管理が徹底されようと、上限1900~2000時間という残業が認められてしまう(違法とならない)状態では、医者の負担は非常に大きいままである。
現状から急に残業上限を下げても、現場は回っていかないというのはその通りかもしれない。
ただ、そこで医者だけが負担を被るという手段をとっては何も解決しない。
人手不足の現場に医者を多く配置できるような体制作りや医者でなければできない仕事とそうでない仕事をきちんと分けるなど、先に考えなければならないことはたくさんある。
一部の病院に限った話だから、とか、目標は960時間であることに変わりないから、などといって話を終わらせず、本当に医者たちの労働環境を守れる案になるよう、検討を重ねてほしいものである。
(弁護士 岡井理紗)
(弁護士コメント)
北野:
医師や看護師の方の中には、夜勤からそのまま翌日も勤務し、連続で20時間前後の勤務をしているという話を聞くことがある。
聞くと「慣れれば大丈夫」と答えるが、心配させないように気を遣っているのかもしれない。
我々一般人は、そんな激務をこなす医師や看護師の方の診察や看護を受けて生きている。
万が一、眠気や疲れで飲ませる薬を間違えたり、診断ミスがあったりしないかと心配になる。私が先日診察を受けた病院で医療ミスは起きてないだろうか。そう考えると他人事ではない。
そんな折、「医師は他の業種より長時間働くべきだ」と言いたげな政策が出てきた。記事によれば目標はあくまで960時間と紹介されているが、人手不足の厳しい現場では「2000時間までは処罰されない」という発想が先に浮かんでしまうのではないだろうか。
もちろん、医師がしっかりと休養すれば今度は患者が困るのかも知れない。そのため、岡井弁護士が述べる通り、医師が行うべき作業や役割分担の見直しなど、目の前のスタッフでできる効率化を考えていかなければならない。
とりあえず私たちにできることは、日頃から体調を崩さないよう生活を正し、医師や看護師の仕事を増やさないよう努力することだろうか。
本当に医療が必要な人のために。
畝岡:
厚生労働省の提示する時間外労働の上限は1900~2000時間であり、これは、一般労働者の過労「死」ライン(960時間)の2倍以上である。
長時間労働が及ぼす人体への悪影響は当然死亡だけではなく、うつ病などの後遺障害を生じさせることもある。また、これらの悪影響の程度は労働時間だけではなく、業務の内容も大きく関係するところ、医師の業務としては人の生命・身体を預かる責任のみならず、緊急性も伴うことがあり非常に負担も大きい。
さらに、過労死基準はあくまでも目安であり、この基準に該当しなくても過労死と認定される事は当然ある。
これらを踏まえると、目標は960時間であるということすら疑問に感じる。
全員ではないとの記載もあるが、もし長時間労働が原因で過労死(またはうつ病等を患うなどの事態)が発生した場合、誰がどのように責任を取るのであろうか。