外部リンク:警官が侵入者取り違え、弁護士刺殺 県に賠償命じる判決
外部リンク:弁護士刺殺「警察が失態重ねる」 遺族、逆転勝訴の判決
被害者が我々と同じく弁護士だから、というわけではないが、今回はこの記事についてコメントしたいと思う。
まず、現場にいた警察官の対応はどうか。
私は警察官の訓練は受けていないが、たしかに突発的な状況下で拳銃を持っていた人を見たら、とりあえずそちらを取り押さえようと思ったのかもしれない。
しかし、当然被害者(弁護士)と侵入者の男はもみ合っており、拳銃を取り上げた可能性もある。また、侵入者の男が刃物を隠し持っていたとしても、二人はもみ合っていた相手同士なら、双方がなんらかの凶器を持っており、警戒を持って対処すべき状況だったのではないだろうか。
その意味で、ぱっと見で「拳銃を持っている人物=侵入者」と断定して拘束するのは軽率な判断というべきだろう。一般人の感覚でプロの警察官レベルに求めるのはこういう対応だろう。
次に、以前に地方裁判所が第一審判決を出した記事を漠然と思い出してみた。
たしか秋田県では凶悪事件が少ないので訓練が不十分で、責任を問えないという判決理由があったと思う。
ほとんど活躍の機会のない凶悪事件の訓練をするより、他の業務に税金や時間を使わざるをえない、ということかもしれないが、犯罪の抑止は警察の本分だと思う。税金や時間の配分を考えるとしても、本分をしっかり確保した上でやるべきことである。
凶悪事件が少ない地域だから訓練に力を入れなくともよい、というものではないと私は思うし、そのような判決ではあまりに世間の感覚とかけ離れており、世間も納得しないように思う。
警察の対応の改善を求めたいことは当然として、裁判所にも世間を十分に納得させられる判決を求めたいと思う。
(弁護士 北野英彦)
(弁護士コメント)
(大澤)
北野弁護士も書いているが、今回の事件、私たちにとっても他人事ではない。
弁護士は紛争の一方の当事者の立場だから、当然、相手方から憎まれる場合もある。
殺人事件で刑が確定し、服役中が原告として起こした損害賠償請求事件で、被告側の代理人をしたことがある。
その原告が起こした訴訟は約13年間で約14件であった。
全て私たちの方が勝訴したが、当方が勝てば勝つだけ、相手方の被告に対する憎しみは増え、代理人である私に対してもその矛先はむく。
原告は被告に対して脅迫状を出していたが、その代理人に対しても危害を加えるとの内容が記載されていた。
約20年近くの服役の後に原告が出所した。
当時、私は、電車に乗るとき、プラットホームの端からかなり離れているようにしていたし、万一、事務所に押し掛けたときにどうするかも考えていた。
さて、今回の事件であるが、まず裁判の概要を説明しておこう。
裁判を起こした死亡した原告(弁護士側:相続人)は加害者だけでなく、警察官が所属していた秋田県警(正確にいうと、県警の所属していた秋田県)を被告の損害賠償請求をした。
原審(第1審)は加害者に金1億円を支払へ、秋田県は支払い義務がないと判断した。
被告のうち、加害者については勝訴して当然だが、その人は無期懲役で服役しているのだから支払能力はない。
そのため、原審としては、秋田県への請求が認められない限り、賠償請求した意味がないということになり、一審は全面敗訴と評価してもいい内容だった。
原告が控訴するのは当然であろう。
さて、原審の判断であるが、次の点で問題がある。
原審は《警察官が津谷さんを侵入者と認識したことについて「当時の状況に照らすと不合理ではなく、非難できない」》ので、警察官の過失はなく、秋田県には賠償責任はないという結論であった。
しかし、警察官としては、まず、双方を引き離す、接触させないという対応が一番必要なことであり、もみ合い状態にある2人の間に距離をとって、接触させないというのが警察官のすべきことであろう。
《喧嘩に割って入る》という表現があるが、これは2人を離して、接触させないということであり、喧嘩の際の対応を一言で表したものである。
拳銃を持っていたからと言って、それを加害者と判断する前に、まず隔離するという必要不可欠な対応を欠いておれば、警察官に過失があったとの認定をすべきであったろう。
ましてや、本件では加害者は刃物を持っていたといのであれば、警察官は包丁を見逃したのかという非難もあろう。
もちろん、争っている2人が、一方は拳銃を持ち、一方は包丁を持つということであれば、極めて異常な事態であり、警察官にとっても日常あり得ないケースであったかもしれない。
しかし、そのようなときにも、冷静に判断することを警察官は期待されているのであり、それを実行しなければならない立場であった。
しかるにその2人の間に距離を置くという基本的なことが実行されていなかったというのであれば、やはり警察官側の過失があったという認定は免れない。
細かな事実はわからないのだが、新聞報道での事実を前提にする限り、高裁の判断は妥当だというべきだろう。
(岡井)
110番通報で状況をある程度聞いて臨場したのなら、まずは2人を引き離すことが先決だったのではないだろうか。
たしかに、拳銃を持っている方を侵入者だと、一瞬誤解して、拳銃を持っている方を取り押さえてしまったこと自体は、仕方のないことかもしれない。
しかし、どちらが弁護士でどちらが侵入者か、状況を完全に把握するまでは、もう一方を自由に動き回れる状態にしておくのは得策ではないであろう。
状況から見れば、もみ合っているうちに拳銃を取り上げていたという事態は想定できるのであるから、2人を引き離さずに最悪の結果が生じてしまえば、警察官の対応に過失があったと言わざるを得ないだろう。
裁判所は身内(国側)に甘いという印象があるが、今回の仙台高裁秋田支部が県にも賠償責任を認めたことは、妥当な判決だといえるのではないか。
(畝岡)
秋田県警の「組織としての」の対応としては、このような状況で2名のみが現場に駆け付けるということでは足りなかったのではないか。この度の判決でも、記事によれば「警察官が現場に着いた時に菅原受刑者は凶器を持っておらず、警察官が尋ねれば誰が侵入者か理解でき、菅原受刑者を制圧、逮捕できたと指摘。制圧できなくて文字色も、津谷さんと妻の良子さん(61)を避難させるのは困難でなかった」などと現場にいた警官個人の対応に焦点が当てられているように思う。
いずれにせよ、裁判所は、警察とは独立した機関である以上、北野弁護士のいうとおり、判決の主文(結果)は当然であるが、判決理由についても国民や遺族を納得させる内容を示すことが求められる。