庭中にハーブのミントが芽を出している。
この草を見るたびに思い出すバーがある。
都島本通りからタクシーで5分位の住宅街にあった。
《本当にこんな店もないところにバーがあるんやろうか?》
と妻と話しながら行った記憶がある。
最初に行ったのは、今から25年ほども前であろうか。
その《バー佐藤》の店の前には狭いが庭があり、
いつもきれいに花が咲いていた。
奥行がわずかに30センチ程度の小さな花壇ではあるが、
壁面にも背の高い花を配置しているので、狭さを感じさせない、
夜はライトアップされ、いつも店の扉を上げる前に立ち止まって、
《すごいね》としばらく庭を見続けていたものだ。
マスターの佐藤さんに《庭、すばらしくきれいですね》とほめると
《30センチの奇跡と言われます》と嬉しそうな答えが返ってきた。
最初に行ったとき、カクテルを注文した。
《やめときなはれ!》と言われ、
《そのうち、おいしいカクテルを作ってあげるから》とも言われた。
勧められたバーボンをロックで飲んだ記憶がある。
たしか、《ジョージ ディッケル》という銘柄であった。
それからしばらく店に通った後の、確か5月頃だったろうか、佐藤さんが⦅ミント ジュレッペ》というカクテルを作ってくれた。
ミントの葉をすりつぶして加えるカクテルであり、さわやかでもあり、本当においしくもあった。
カウンターに座った私も妻も、《おいしいねぇ》を連発した。
《カルドバス》などという、少量のくせに、それでもかなり値段の高い酒も教えてもらった。
《佐藤さん、佐藤さん》と呼びかけ、いつも楽しい夜の時間を過ごすことができた。
10年か、あるいは15年くらいも行っていないので、念のために電話をした。現在も営業をしているという。
《ミントのカクテル、今もありますか?》と聞くと
《あります。今が旬でおいしいです》という答えであった。
さて、今日は早く仕事をやめて、蝶ネクタイをした佐藤さんに会いにいくとするか・・
ミントの葉。もう少しすると白い花が咲き出す。
(弁護士 大澤龍司)