見ただけで大体、どういう場所かがわかる地名がある。
醒ヶ井がそれで、目の覚めるような清らかな水が湧きだし、流れているというという印象がある。
見事な秋晴れの日(平成28年11月19日)その醒ヶ井に行ってきた。
JR東海道線醒ヶ井駅は米原駅から普通電車に乗って一駅である。
ホームは降りる時は無人駅で、切符は改札にある空き缶にいれることになっている(私はICカードのPiTaPaだったので精算できず、後に降りた湖西線の駅で精算した)。
無人改札
ホームから了徳寺のイチョウが見える
駅ホームからは上の写真の風景をみることができる。
写真の中央の黄葉しているのは了徳寺のイチョウである。
このイチョウの左側に水が湧いている《居醒(いざめ)の清水》があり、右側には次回に掲載する湧水の《西行の水》があることになる。
【居醒の清水】
《居醒(いざめ)の清水》は最上流の湧水であり、地蔵川の水源となっている。
2~3メートル程度の川の向こうの2ケ所位から湧き出している。
居醒の清水
山裾にある岩にシダが生えており、その下あたりから噴き出しているのだろうが、滝のように流れ落ちているわけでもなく、又、川底から勢いよく噴き出しているというわけでもない。
そういう意味ではごく地味な感じの湧水であった。
環境省が日本の名水を選定している(外部リンク:平成の名水百選)。
昭和の時代に100名水を、その後、平成になって更に別途100の名水(合計で200)を選んだ中の《平成の名水百選》の方に選ばれている。
駅の近くにあったパンフレットには《平成の名水 第1位》と記載されていたが、ネットで検索してみても第1位とはどこにも書かれていなかった。
醒ヶ井駅前に醒井の水を飲める場所があったが、蛇口から出てきた水は生ぬるく、爽やかとはほど遠かった。
駅から地蔵川までは50メートルくらいの距離があるが、この水は川からモーターでくみ上げ、塩ビパイプで引いているのだろう。
流しっぱなしではなく、パイプの中でたまっていた水であるからおいしくないのはやむをえないかもしれない。
山裾から流れ出ている水をその場で飲んだのであれば、もっと違った味がしたのかもしれないが、残念ながら、川から直接水を飲めるような設備は存在しなかった。
【中山道の醤油屋で醤油プリンを食べる】
醒ヶ井は中山道の第61宿である。
中山道は江戸時代の江戸と京都を結ぶ主要街道だが、私だけの感じかもしれないが、東海道が明るい感じがするのに対して、なぜか暗い感じを受ける。
《この道や 行く人なしに 秋の暮れ》という芭蕉の有名な俳句があるが、このイメージがある。
地元の人に聞くと、冬には60センチくらい雪が積もるともいうし、現に除雪車が道沿いに置かれてもいた。
中山道風景
しかし、この日は晴天であったし、かつ、真昼であったせい、地蔵川沿いの道は明るく、さわやかであった。
通りを歩いている人のほとんどは、ハイキング姿がほとんどで、カップル、夫婦連れか女友達で、すれ違った人が多くとも20人程度だが、暗い感じは全くしなかった。
しかし、秋の夕暮れあるいは積雪のころは違った表情を見せるのかもしれないが。
なお、古い家屋はあまり残っておらず、わずかに問屋場跡が江戸時代の建物のようであり、その他にはかなり古い感じの商家風の店が2軒程度あっただけである。
そのうちの1軒がヤマキという醤油醸造所であった。
店の前に醤油プリンありますという看板がかかっていた。
ヤマキ醸造所
中を覗くと、買ったものを食べることができるようなベンチもあった。
この店に入り、醤油プリンを買い、店の中のベンチに座って食べた。
醤油とプリンと果たして合うのかな・・と思ったが、プリンの上のカラメルに少し醤油入っているという程度であり、特に違和感はなかった。
醤油プリン
店の人と話をしたついでにここで造った味噌を買って帰ったが、《おいしいから》とお勧めするほどでもない(と私は思った)。
【了徳寺の葉つきイチョウを探してみる】
《居醒の清水》から少し、下流にいくと、黄葉している大きなイチョウの木があった。
了徳寺のイチョウ
了徳寺のイチョウであり、この木は葉っぱに実(銀杏)がつくというので有名である。
「黄」葉より「紅」葉の方がインパクトがある。
しかし、イチョウだけは、「黄」葉であるが、本当に鮮やかなだと思うときがある。
寺の境内に入り、イチョウの根元で、落ちているイチョウの葉を探したが、そのような葉はないようだ。
しばらく探していると、寺の中からおばあさんが出てきた。
《ありませんか?》と声をかけてくれた。
《実付きの葉を見かけたら、イチョウのそばにある石碑のあたりにいつも置いているのだが》といいながら一緒に探してくれた。
聞いてみると、全ての葉に実がついているわけではなく、一部の葉だけの現象で、しかもそのような実つきの葉は早い段階で落葉するという。
《一種の奇形ですな》とも言い、そして《あった、ほら、これです》と見せてくれた。
葉つきイチョウ
実が葉についているように見える。
《皆さん、実を持って帰られるけど、実付きイチョウが生えたと言ってきた人はいない》ということであった。
私も実をもらって帰ることにし、《もし、葉に実がついていたら報告しますね》とは言ったものの、実は家の庭に、昔、小さなイチョウがあった。
しかし、大きくなったら扱いに困るといって切ってしまった記憶がある。
果たしてこのイチョウの実、植えたものかどうか・・
それにしても、下から見上げるイチョウはいかにも堂々と枝を広げ、青空に黄色の葉を精一杯、広げている。
下から見上げたイチョウ
【清き流れに生える梅花藻に触れる】
地蔵川の流れに沿って、5分くらい歩いていくと、《十王水》という湧水がある。
ここも同じように川向いの岩の間から水が湧きだしている。
このあたりの川底のあちらこちらにも緑の藻があるのが見える。
梅花藻である。
梅花藻
藻の中にちらほらと小さな白くて丸いものが見えるが、それが梅花藻の花であろうが、それにしても小さい。
テレビなどで見たときはクローズアップしているため、大きく画面に映されるが、実際に見ると直径1センチ程度だろうか。
この川岸のあちらこちらに、川面へ下りる石の階段がついていたので、下りてみた。
石の階段
近くで見ると、梅花藻は短くて細い糸くずを一杯、集めたようなものである(金魚藻を知っている人なら、それをより小さく細く、そして繊細にしたような感じといえばわかるだろう。
手をつけた川水はそれほど冷たいというものではなかった。
そのとき、藻が手に触れたが、細やかで優しい感触がした。
(大澤龍司)
(つづく)