登りの坂がきつくなり始めた。
まだ薄暗い林の中だったが、
道の脇の木が「し」の形になっているのに気付いた。
同じような姿を新潟県の妙高高原で見た。
スキー場の近くに生えている木が
坂の下に向かって曲がっていた。
この蒜山にも雪が降る。
上蒜山の西側の麓にはスキー場もある。
冬、深く積もった雪が斜面を滑り落ちるとき
木を倒さんばかりの圧力を加えた。
写真の右側が斜面の上側になり、
雪が左方向に降りてきて、木が左に曲がったのだろう。
幸田文の「木」という本の中におもしろい話があった。
積雪の多い地方では、根元から曲がった木が多い。
木材業者は、そのようなものは商品にならないと言う。
幸田文が、本当のそうなのかと疑問に思い、
そのような木を製材してもらうことにした。
鋸で切断されていた木は途中で、
《バン》と大音響を出して割れたという。
これを読んだとき、人間も同じようなものだと思った。
幼いころの嫌な記憶が、今も心の中に巣くっている。
時々、泡のように、意識の中に浮かび上がってくる。
嫌なことではあるけれども、役立つこともある。
法律相談で相談者の気持ちがわかるためには
そのような傷ついた経験も役だっているに違いない。
木とは違って、人の場合、
その後の様々な経験が積み重なって、今がある。
悲しいこともあったが、楽しいこともあった。
そのような経験が今の私を作っている。