やっとたどり着いた山頂には30人ほどの人がいた。
登ってきたひとで、《3密やな》と言った人がいた。
が、ただ、すぐに《そうでもないなぁ》と自分で訂正をしていた。
頂上なので、壁はどこにもない吹きさらしで、
どう考えても《密閉》ではない。
《密集》というほどの人数でもなく、
ましてや《密接》に引っ付いている人もない。
だからどう考えても3密ではない。
しかし、これまであまり人のいない山道を歩いてきた後で見れば、
30人だって《密集》といえるかもしれない。
人の多い山頂に来た解放感、険しい鎖場などを克服した達成感。
今、ここは、同じような苦労の末にたどり着いた人たちばかりである。
車やロープウェイなど、楽な手段は一切、ない。
ただ、自分の足と登ってきた人ばかりである。
みな、口に出すかどうかは別として、
ささやかな連帯感を共通しているかもしれない。
だから、《密集》ということでもなにしても、心理的に距離感も近かろう。
どう考えても、《3密》ではないのははっきりしているが、
それでも、思わず、《3密》と口走った人の気持ちが
すこしは分かるような気がした。