安達太良山の麓、岳温泉を歩く③
岳温泉に桜坂というところがある。
その名のとおり、坂道にある桜並木だ。
写真はその時のもので、桜の花がきれいだ。
しかし、現地では《きれい》などという感じはなかった。
今にも雨が降り出しそうな曇り空のせいだろう。
どうも、私が桜を見るときは、花を単体ではなく、
一本の木や並木をまとめての全体として、
薄いピンクの色の広がりとして見ているようだ。
灰色が背景ではくすんで、うす薄汚れて見える。
きれいなのは、やはり晴れた青空のときだろう。
暖かく、そしてさわやかな風が吹く時の桜は
きれいを通り越して、《幸せ》という感じがする。
昔も昔、私が大学に入って最初の登校日だった。
校舎への坂を上っているときのことを思い出す。
空は晴れ、吹く風も暖かく、
桜の花びらが顔にかかってくる。
《これを桜吹雪というのか》
あの光景は今でも鮮明によみがえる。
半世紀も前だが、心に深く刻み込まれている。